【Primaveraに降る雪】 27 ラキ編 4
「・・・契約 ・・・切ったからか」
「・・・・・」
「俺が お前との契約 破棄したから・・・ そんな情けない事になってんだろ・・・」
「・・・・はい」
「・・・契約って そんなに大事なもんなのか? そんなもんひとつでそんなに違うもんなのか?」
「はい ・・・私にとって 言霊の力は絶対ですから。 でも、それ以上に 貴方がいないと思うだけで、こんなにも弱くなるものなのですね・・・。」
自分でも驚いたとでも言いたげな表情でラキを見詰め返す。
ラキは、頬に当てていた両手を今度はシンの胸倉に移して掴み上げると震える手に力を込めて、歯を食い縛ってシンを睨みつけた。
「それならっ・・・ そんなに弱いんなら・・・っ 出しゃばんじゃねえよっ! 何であん時飛び出してきたりすんだよっ!
こんなくだらねえ怪我しやがって! 俺だったら避けられたかもしんねえじゃねえか! 俺は・・・ お前の マスターじゃねえのにっ!!」
大声で怒鳴るラキの言葉を聞いているのかいないのか、シンは優しい瞳で彼の髪を指で梳かして頬を撫でる。
怒っているのに優しく触れられて、ラキはまた言葉を詰まらせ目を閉じた。
シンは このままだと どうなるんだろう
吸血鬼は死なないと 本人がよく話していたが 本当だろうか
こんな酷い傷でも時間が経てば元に戻るのだろうか
いつまでこんな苦しそうなこいつを見てなきゃならないんだろう
・・・そういえば 小さい頃、初めてシンに逢った時、彼の瞳は今みたいな白銀色をしていた気がする。
その目を見て「綺麗」と言うと、シンが嬉しそうに柔らかく微笑んだのを思い出した。
それから、 契約を交わして、 その代償として・・・
「・・・そうか」
ラキは、シンの胸倉から手を離すと自分の後ろに手を回し、腰に差している腰刀を抜いた。
それを右手に持ち替えて左の掌に宛がうと、ぐっと力を込める。
「ラキ・・・っ」
シンが驚いてラキの腕を掴むがもう遅い。
赤黒い液体がじわじわ掌に溜まり、溢れて零れた。
「ほれ」
「・・・ ほれって・・・ ラキ・・・ 何て事を・・・」
「血、足りねえんだろ、 早くしろよ、 痛えよ・・・」
「・・・・・・」
「飲めねえってんなら次は腹切るぞ そしたら血がいーーーっぱい出て、多分死ぬなー俺」
「・・・! ラキぃ・・・ また新しい攻め方を・・・」
大真面目で脅してくるラキに堪らず吹き出してしまう。
「笑ってねーで どうするか早く決めろ」
「・・・全く、 人一倍痛いのが苦手な貴方が・・・ せっかく私が我慢してるというのに・・・」
「自分で切ったんだから誰の所為でもねえだろ・・・」
「・・・ いいのですか・・・ どういう意味か分かってますよね」
「っせーな! 分かってるからやってるに決まって・・・―――――― ん、」
ラキが言い終わるのを待っていられず、シンはその左手に口を付けていた。
ゆっくり、優しく舌を這わせて傷口を口に含む。
ゴクッと時折喉に響くその音に応えるように、ラキの肩が震えた。
「・・・っ ・・・はぁ イヤらしいよ舐め方が・・・」
掌を舐められただけなのに、なんでこんなに感じるんだろう。
力の抜けたラキの左手首を握ったまま、シンが再び俯いて身体を屈める。
その体勢のまま小さく呻くとふわっと銀糸の髪が波打った。
薄暗く冷たい床に跪きながらシンの身体が一瞬銀色に光り揺らめいたかと思うと小さな光の粒が弾け飛んで二人の間を舞った。
ラキにとって二度目になるこの光景、驚きはしなかったが内心少しだけ不安だった。
「・・・ラキ」
「あ?」
「ありがとうございます」
「何がだよ・・・」
俯いていたシンが顔を上げ、膝を突いたまま上着の裾を捲りだした。
脇腹にあったあの痛々しい傷がすっかり塞がって薄く小さな痕だけが残っている。
光の粒の余韻に照らされたその傷跡を眺めながら、ラキは彼に気付かれないようにほっと溜め息をついた。
いつのまにか黒い耳も尻尾も引っ込んでその表情には生気が戻っている。
それでもまだ瞳は白銀色のまま、愛おしそうにラキを見上げた。
「・・・・・」
「俺が お前との契約 破棄したから・・・ そんな情けない事になってんだろ・・・」
「・・・・はい」
「・・・契約って そんなに大事なもんなのか? そんなもんひとつでそんなに違うもんなのか?」
「はい ・・・私にとって 言霊の力は絶対ですから。 でも、それ以上に 貴方がいないと思うだけで、こんなにも弱くなるものなのですね・・・。」
自分でも驚いたとでも言いたげな表情でラキを見詰め返す。
ラキは、頬に当てていた両手を今度はシンの胸倉に移して掴み上げると震える手に力を込めて、歯を食い縛ってシンを睨みつけた。
「それならっ・・・ そんなに弱いんなら・・・っ 出しゃばんじゃねえよっ! 何であん時飛び出してきたりすんだよっ!
こんなくだらねえ怪我しやがって! 俺だったら避けられたかもしんねえじゃねえか! 俺は・・・ お前の マスターじゃねえのにっ!!」
大声で怒鳴るラキの言葉を聞いているのかいないのか、シンは優しい瞳で彼の髪を指で梳かして頬を撫でる。
怒っているのに優しく触れられて、ラキはまた言葉を詰まらせ目を閉じた。
シンは このままだと どうなるんだろう
吸血鬼は死なないと 本人がよく話していたが 本当だろうか
こんな酷い傷でも時間が経てば元に戻るのだろうか
いつまでこんな苦しそうなこいつを見てなきゃならないんだろう
・・・そういえば 小さい頃、初めてシンに逢った時、彼の瞳は今みたいな白銀色をしていた気がする。
その目を見て「綺麗」と言うと、シンが嬉しそうに柔らかく微笑んだのを思い出した。
それから、 契約を交わして、 その代償として・・・
「・・・そうか」
ラキは、シンの胸倉から手を離すと自分の後ろに手を回し、腰に差している腰刀を抜いた。
それを右手に持ち替えて左の掌に宛がうと、ぐっと力を込める。
「ラキ・・・っ」
シンが驚いてラキの腕を掴むがもう遅い。
赤黒い液体がじわじわ掌に溜まり、溢れて零れた。
「ほれ」
「・・・ ほれって・・・ ラキ・・・ 何て事を・・・」
「血、足りねえんだろ、 早くしろよ、 痛えよ・・・」
「・・・・・・」
「飲めねえってんなら次は腹切るぞ そしたら血がいーーーっぱい出て、多分死ぬなー俺」
「・・・! ラキぃ・・・ また新しい攻め方を・・・」
大真面目で脅してくるラキに堪らず吹き出してしまう。
「笑ってねーで どうするか早く決めろ」
「・・・全く、 人一倍痛いのが苦手な貴方が・・・ せっかく私が我慢してるというのに・・・」
「自分で切ったんだから誰の所為でもねえだろ・・・」
「・・・ いいのですか・・・ どういう意味か分かってますよね」
「っせーな! 分かってるからやってるに決まって・・・―――――― ん、」
ラキが言い終わるのを待っていられず、シンはその左手に口を付けていた。
ゆっくり、優しく舌を這わせて傷口を口に含む。
ゴクッと時折喉に響くその音に応えるように、ラキの肩が震えた。
「・・・っ ・・・はぁ イヤらしいよ舐め方が・・・」
掌を舐められただけなのに、なんでこんなに感じるんだろう。
力の抜けたラキの左手首を握ったまま、シンが再び俯いて身体を屈める。
その体勢のまま小さく呻くとふわっと銀糸の髪が波打った。
薄暗く冷たい床に跪きながらシンの身体が一瞬銀色に光り揺らめいたかと思うと小さな光の粒が弾け飛んで二人の間を舞った。
ラキにとって二度目になるこの光景、驚きはしなかったが内心少しだけ不安だった。
「・・・ラキ」
「あ?」
「ありがとうございます」
「何がだよ・・・」
俯いていたシンが顔を上げ、膝を突いたまま上着の裾を捲りだした。
脇腹にあったあの痛々しい傷がすっかり塞がって薄く小さな痕だけが残っている。
光の粒の余韻に照らされたその傷跡を眺めながら、ラキは彼に気付かれないようにほっと溜め息をついた。
いつのまにか黒い耳も尻尾も引っ込んでその表情には生気が戻っている。
それでもまだ瞳は白銀色のまま、愛おしそうにラキを見上げた。