【Primaveraに降る雪】 10
「・・・・あ、 シンのマスターだ。」
「・・・・・・」
カイトの口からシンの名が出てぶわっと頭に血が昇る。
ラキがここに居るということは、シンも近くに居るかもしれないと思ったカイトが、ラキの後ろや周りをウロウロと探しだした。
そのカイトに更にイラついたラキは、「いねぇよ!」と吐き捨てるように言い放った。
「ぇ・・・、 ぁ・・・ そか・・・ ごめん・・・」
「~~~~~~・・・・!」
落ち込んで謝罪の言葉を口にするカイトに、胸が急に苦しくなるのを感じて息を止めるラキ。
「なっ・・・んで! お前が 謝るんだよ!」
「・・・!? だって・・・ 何か怒ってるから・・・。
あの・・・ 俺さ、さっきシンと話ができて凄い面白かったから、後で会ったら『ありがと』って言っておいてくれるかな・・・」
言葉を詰まらせて黙るラキを恐る恐る見詰めながらゆっくりと話すカイト。
それを横目で見ていたアースは、夢中で解説を続けるパパンを無視して、自分の胸倉に潜り込んでいるキッカを無理矢理引っ張り出すと、掌に乗せて目の前まで持ち上げた。
キッカの顔を青い瞳でじ・・・っと見据えると低く落ち着いた声で話し始める。
「キッカ・・・ そんなに俺が好きか」
「えっ・・・? ・・・ 当たり前じゃん!」
「この魔法は使わないに越したことは無いのですが、今キッカの命が危ういことを考えれば致し方ありませぬ。
この杖の力でキッカを強制的に我々の世界に送還させて頂きま―――・・・」
「っせーよジジイ 俺が話してんだろが・・・」
「――ぇえっ!? 何とっ・・・!! ここ大事な台詞・・・ ワシの・・・ 」
「好きな人と一緒に居たいのは当たり前でしょ! ちょっとくらい苦しくても平気だもんっ! ボク、アース様好きだもん!
カイトなんかよりずっとずっと好きだもん!!!! アース様と一緒に居られるなら何でもするもん!!!!」
「・・・そうか、 なら死ぬしかねぇな・・・」
「・・・っ!!」
「・・・命を粗末にする奴って嫌いなんだよ。 主の言う事きかねぇ奴も同じだ。 いつまでもお前に付き合ってやれるほど俺も暇じゃねぇし。 ・・・そんなに死にてぇなら ・・・俺が殺してやるよ」
凍りつくような低い声がキッカを包み込む。
アースの掌の上で、驚いて固まるキッカをもう片方の手でそっと握った。
獲物を睨みつけて逃がさないように、静かに笑いながらその手に力を込めていくアースを見てその場に居た全員の表情が一変した。
「なーりーまーせーぬー!!!!! アース殿お止めくだされ!! キッカァー!! 逃げんか!! 握り潰されるぞ!!」
「アース!! 駄目だよっ!」
「何してんだあいつっ! 精霊殺す気かっ!」
「まずい・・・! こうなったらこの杖の魔法でキッカを我々の世界へ・・・っ!! ~~~~~~・・・!! 長老様、どうかお力をお貸しくだされっ!! ワシの子を助けてくだされっ!!」
パパンが何やらブツブツと呪文を唱えると杖の先から炎が噴き出しグルグルと渦を巻いて空へ昇っていく。
空の上で何重もの輪を作るとどんどん大きく広がって辺り一面を包み込み、次々と色を変えてドーム状になった。
バリバリと雷のような音を立てて、時折火花を散らし、その場に居たパパン、キッカ、アース、カイト、ラキを取り囲む。
そしてキッカを中心に円を描いて軌道修正すると、ぐにゃりと空間が歪んで光りだした。
「・・・・痛っ!」
「アース! キッカから離れてっ!」
「うわ・・・っ! すげぇ魔力だ・・・っ!」
「いやだーーーーっ!!! パパンなんか嫌いだーーーっ!!! カイトも嫌いだーーーっ!!!
帰らない帰らない帰らないっ!!!! アース様ぁぁあーーーーーっ!!!! い゛や゛ぁ゛ーーーーーっ!!!!!」
光と炎の嵐に包まれ、アースの掌の中でキッカが泣き叫ぶ。
いつの間にかキッカを守るように包み込んでいたアースの大きな手にぎゅっとしがみ付くと、大声で拒絶しながら全身を真っ赤に染めていく。
杖が放つ魔法とキッカの魔力が混ざり合って一層激しく光り輝き、地面が大気ごとグラグラと揺れだした。
「・・・ちっ やべぇな・・・ ・・・っ ・・・カイトっ!!」
「・・・・・っ!? ァー・・・ス・・・」
嵐の中、目の前をノイズが不規則に横切る。
嫌な予感に襲われたアースが思わず振り返ってカイトを呼ぶ。
突然名前を呼ばれて驚きながらも、その声に導かれてアースの元に駆け寄ろうとするカイト。
その行為がキッカの心を更に抉って溢れ出した魔力が一気に爆発した。
「な・・・んだよこれっ!! 何が起こってんだよっ!! おいやめろっ!!」
バチバチと光と闇を交互に繰り返しながら伸縮する次元魔法に巻き込まれるラキ。
歪んでいく空間の中で、両腕で顔を庇いながら身動きが取れないでいた。
混ざり合って異常な程膨れ上がった魔力が暴走して、足元にある岩や倒木、崩れた瓦礫が宙を舞った。
アースたちを取り囲んでグルグルと飛び回るとそのうちのひとつがラキ目掛けて方向を変えた。
「―――・・・・っ!!!」
「ラキっ・・・!!」
キッカが叫び出したと同時に ラキに向かって走り出していた狼。
飛んできた障害物より一瞬速く彼の元に辿り着くとその勢いのままラキを突き飛ばした。
「・・・・・・っ!! シン!?」
よろめきながら、自分の視界に飛び込んできた黒い狼の名を叫んだ瞬間、目映い閃光が全員を包み込んだ。
――――――・・・ 一瞬で静まり返る草原。
小さなつむじ風をひとつ残して、後は最初から誰も居なかったように さわさわと草木が涼しげに揺れていた。
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「・・・・・・」
カイトの口からシンの名が出てぶわっと頭に血が昇る。
ラキがここに居るということは、シンも近くに居るかもしれないと思ったカイトが、ラキの後ろや周りをウロウロと探しだした。
そのカイトに更にイラついたラキは、「いねぇよ!」と吐き捨てるように言い放った。
「ぇ・・・、 ぁ・・・ そか・・・ ごめん・・・」
「~~~~~~・・・・!」
落ち込んで謝罪の言葉を口にするカイトに、胸が急に苦しくなるのを感じて息を止めるラキ。
「なっ・・・んで! お前が 謝るんだよ!」
「・・・!? だって・・・ 何か怒ってるから・・・。
あの・・・ 俺さ、さっきシンと話ができて凄い面白かったから、後で会ったら『ありがと』って言っておいてくれるかな・・・」
言葉を詰まらせて黙るラキを恐る恐る見詰めながらゆっくりと話すカイト。
それを横目で見ていたアースは、夢中で解説を続けるパパンを無視して、自分の胸倉に潜り込んでいるキッカを無理矢理引っ張り出すと、掌に乗せて目の前まで持ち上げた。
キッカの顔を青い瞳でじ・・・っと見据えると低く落ち着いた声で話し始める。
「キッカ・・・ そんなに俺が好きか」
「えっ・・・? ・・・ 当たり前じゃん!」
「この魔法は使わないに越したことは無いのですが、今キッカの命が危ういことを考えれば致し方ありませぬ。
この杖の力でキッカを強制的に我々の世界に送還させて頂きま―――・・・」
「っせーよジジイ 俺が話してんだろが・・・」
「――ぇえっ!? 何とっ・・・!! ここ大事な台詞・・・ ワシの・・・ 」
「好きな人と一緒に居たいのは当たり前でしょ! ちょっとくらい苦しくても平気だもんっ! ボク、アース様好きだもん!
カイトなんかよりずっとずっと好きだもん!!!! アース様と一緒に居られるなら何でもするもん!!!!」
「・・・そうか、 なら死ぬしかねぇな・・・」
「・・・っ!!」
「・・・命を粗末にする奴って嫌いなんだよ。 主の言う事きかねぇ奴も同じだ。 いつまでもお前に付き合ってやれるほど俺も暇じゃねぇし。 ・・・そんなに死にてぇなら ・・・俺が殺してやるよ」
凍りつくような低い声がキッカを包み込む。
アースの掌の上で、驚いて固まるキッカをもう片方の手でそっと握った。
獲物を睨みつけて逃がさないように、静かに笑いながらその手に力を込めていくアースを見てその場に居た全員の表情が一変した。
「なーりーまーせーぬー!!!!! アース殿お止めくだされ!! キッカァー!! 逃げんか!! 握り潰されるぞ!!」
「アース!! 駄目だよっ!」
「何してんだあいつっ! 精霊殺す気かっ!」
「まずい・・・! こうなったらこの杖の魔法でキッカを我々の世界へ・・・っ!! ~~~~~~・・・!! 長老様、どうかお力をお貸しくだされっ!! ワシの子を助けてくだされっ!!」
パパンが何やらブツブツと呪文を唱えると杖の先から炎が噴き出しグルグルと渦を巻いて空へ昇っていく。
空の上で何重もの輪を作るとどんどん大きく広がって辺り一面を包み込み、次々と色を変えてドーム状になった。
バリバリと雷のような音を立てて、時折火花を散らし、その場に居たパパン、キッカ、アース、カイト、ラキを取り囲む。
そしてキッカを中心に円を描いて軌道修正すると、ぐにゃりと空間が歪んで光りだした。
「・・・・痛っ!」
「アース! キッカから離れてっ!」
「うわ・・・っ! すげぇ魔力だ・・・っ!」
「いやだーーーーっ!!! パパンなんか嫌いだーーーっ!!! カイトも嫌いだーーーっ!!!
帰らない帰らない帰らないっ!!!! アース様ぁぁあーーーーーっ!!!! い゛や゛ぁ゛ーーーーーっ!!!!!」
光と炎の嵐に包まれ、アースの掌の中でキッカが泣き叫ぶ。
いつの間にかキッカを守るように包み込んでいたアースの大きな手にぎゅっとしがみ付くと、大声で拒絶しながら全身を真っ赤に染めていく。
杖が放つ魔法とキッカの魔力が混ざり合って一層激しく光り輝き、地面が大気ごとグラグラと揺れだした。
「・・・ちっ やべぇな・・・ ・・・っ ・・・カイトっ!!」
「・・・・・っ!? ァー・・・ス・・・」
嵐の中、目の前をノイズが不規則に横切る。
嫌な予感に襲われたアースが思わず振り返ってカイトを呼ぶ。
突然名前を呼ばれて驚きながらも、その声に導かれてアースの元に駆け寄ろうとするカイト。
その行為がキッカの心を更に抉って溢れ出した魔力が一気に爆発した。
「な・・・んだよこれっ!! 何が起こってんだよっ!! おいやめろっ!!」
バチバチと光と闇を交互に繰り返しながら伸縮する次元魔法に巻き込まれるラキ。
歪んでいく空間の中で、両腕で顔を庇いながら身動きが取れないでいた。
混ざり合って異常な程膨れ上がった魔力が暴走して、足元にある岩や倒木、崩れた瓦礫が宙を舞った。
アースたちを取り囲んでグルグルと飛び回るとそのうちのひとつがラキ目掛けて方向を変えた。
「―――・・・・っ!!!」
「ラキっ・・・!!」
キッカが叫び出したと同時に ラキに向かって走り出していた狼。
飛んできた障害物より一瞬速く彼の元に辿り着くとその勢いのままラキを突き飛ばした。
「・・・・・・っ!! シン!?」
よろめきながら、自分の視界に飛び込んできた黒い狼の名を叫んだ瞬間、目映い閃光が全員を包み込んだ。
――――――・・・ 一瞬で静まり返る草原。
小さなつむじ風をひとつ残して、後は最初から誰も居なかったように さわさわと草木が涼しげに揺れていた。

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