【another tender snow】 ②
真っ暗な洞窟の中をひたすら進んでどのくらい経ったのか、ラキはもうすでに時間の感覚が無くなっていた。
用意していたランプも数時間前に使い切ってしまっていた。
体力には自信があるラキでも目をこらしながら歩き続けるのは体力的にも精神的にもキツかった。
逆にシンは太陽の光から開放されてどんどん調子が良くなっているようで、洞窟に入ってきた時よりもさらにペースを上げて暗闇の中を進んで行く。
明かりが無くてもシンには隅々まで見えているらしく、ごつごつした岩場をひょいひょい飛び越えて行く。
少しずつラキとシンの差が開いていくのをヤツに悟られまいと平静を装って追いかけるラキであった。
「ラキ・・・。」
「んだよ・・・。」
「無理しないで下さい。ほら、お姫様抱っこ♡」(おいでおいで♬ )
「っせーな! いいっつってんだろ!自分で歩くっ! 手をワキワキすなっ!!」
「ホント 頑張り屋さんですねぇラキは。 そこがまた魅力的なんですけど♡」
「ハァ・・ 俺が・・・ 洞窟を通って行くって・・・ 決めたんだから自力で・・・ 出口まで行くんだよっ!」
「ラキは人間でしょう。 私とは体力のあり方が違うんですから 頼って下さっていいんですよ。」
「いいって・・・ これもいい修行に・・・・ なってる・・・ ハァ・・・」
「・・・・ラキ」
「鼻血拭けバカ」
「失礼、息遣いが色っぽくてつい・・・ てか見え辛いのによく分かりましたね」
「血の匂いがした・・・・」
「あー・・・・。 そんなに出てましたか・・・。 ・・・・・・・・。」
「はぁ・・・・・ 今・・・何時・・・くらいだろな・・・」
「そうですね ちょうどぶっ通しで10時間程歩いたでしょうかね。」
「っつーことは・・・ そろそろ夜か。」
「やっぱり休憩しましょう。休まないと・・・。怪我をしてからでは遅いです。」
「・・・・・・・。」
「・・・・・・・ラキ。 できれば出口までこのまま行きたい所ですが、この洞窟は思ったよりも長いですよ。それでも半分は過ぎてます。少し休みましょう。」
「・・・・・・・・明かり・・・何か無かったか?・・・・・・・・・・!お前、変なロウソク持ってただろ」
「あぁ・・・・昨夜あの街で買ったあれですか あれは夜寝る前にちょっと使ったので大分小さいですよ。」
「・・・・お前 多趣味だなぁ・・・ 何?今度はセルフSMに挑戦か・・・?」
「ラキが相手をしてくれたら もっといいんですけどねぇ・・・」
「しねぇし! いーからそれ火点けろよ」
「・・・こんなのでも結構明るくなるものですね」
「ふう・・・ ちょっと疲れたな。・・・・・・・・夕方までには出れると思ったのに しくった・・・。」
「だから言ったでしょう。 抱っこしますよって。 そうすればラキを抱いたまま走れて今頃洞窟の外に出てたかもしれなかったのに・・・。 ラキが自分で歩くって言うのであなたの意思を尊重したんですよ。」
「っせーな。 自分の事は自分でしたいんだよ。」
いや、無理にでも抱いて走るべきだった。私の足なら夕方には出られたはずだ。
ラキは暗闇が怖い。
小さい頃の出来事がトラウマになっているからだ。
そのことを私は誰よりも知っていたのに・・・光が苦手な私のために洞窟を進む事を選んでくれた彼の優しさが嬉しくて一瞬忘れていた。中に入ってから気付いたのでは遅すぎる。引き返したらそれこそ彼を傷付けただろう。
だからこそ ここは早く抜けるべきだった。
でも・・・
「ラキの頑張る姿が愛おしすぎてごめんなさい。」
「は!?」
「次、遅れたらお姫様抱っこの刑ですよ。」
「やだっつってんだろが しつけぇな んな事する位なら街に着けなくてもいいわ。」
「じゃあ せめておんぶですね。」
「・・・・・・・。」
「亜人種が集まるんですよ。【祭】って言ったって、その辺でやるような楽しいお祭じゃないのでしょう。」
「たぶんな。」
「それに・・・ いるかもしれないと思ってるんでしょう そこに。」
「分かんねぇから見に行く。」
「皆殺しはやめて下さいね。」
「着いてから考える・・・・。」
「前にも言いましたが、亜人にも色んな種類がいるんですよ。凶暴なのも確かにいますが逆に穏やかな種族もいるんです。」
「俺の目で確かめて判断する。」
「ラキ、そんな怖い目をするのはやめてください。興奮しちゃいます。 さっき歩いてる時も時折考えてたでしょう。 私には見えてましたよ。」
「・・・・・・・・。」
「ただでさえ綺麗な瞳が、そんなにキリッとされたら、ますます惚れちゃうじゃないですか♡」
「・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・え・・と・・・ラキ?ほら、手を払うとか・・・『近いわボケ!!』とか・・・ビンタするとか・・・してくれないと・・・」
いつもの通り、座ってるラキに近付いて彼の肩越しに手を壁に置いて囁いてみた。
いつもの通り、ラキに罵倒されるのを期待していたのに、黒くて美しいその瞳でじっと見詰められて驚いてしまった。
「・・・えぇ・・と・・これは何のフラグですか?あまりこういう状況に陥ったことが無いもので・・・ あ、焦らしプレイ・・・とか? 無視され続けるのもこれはこれでイイですね。」
「無くなるな・・・」
「は?」
「ロウソクが・・・」
「は・・・ぇ? あ・・・・・もぅ・・・?」
そう言い掛けた瞬間、辺りがまた暗闇に包まれた。ロウソクの燃え尽きる匂いが二人の間を廻った。
シンを見詰めていたラキの視線が、闇に消えた彼を探して彷徨った。
シンは変わらずその場で、自分を探すラキの表情を見続けていた。
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