【Primaveraに降る雪】 46 その後 アース&カイト編
宿に着いてすぐに「風呂に入れ」と言ってアースはカイトを脱衣所に放り出した。
アースもびしょ濡れなんだから先に入っていいよと言うと「一服する」と服を脱ぎながら窓際の椅子に腰掛けた。
新しい煙草の包装を解いて火を点けるのを見て、「ありがと・・・」と礼を言い素直に浴室に入った。
少し熱めのお湯を張って頭の先までざぶんと潜る。
冷たく濡れた髪を熱が浸食して脳天までじんわりと暖まって気持ちいい。
暫く潜った後、顔を出してボーっとすると今日の不思議な出来事が頭の中を巡りだして、無意識に電の名前を呟いていた。
「誰だよそれ」
「へぇっ!?」
頭の後ろから声がして驚いて振り向くといつの間にかアースが同じ湯船の中にいて、勢いよく飛び跳ねてしまった。
「びっっっっくりしたー・・・ いつ来たの」
「びっくりしたのはこっちだよ お前何分潜ってんだ。 本当に素潜り得意なんだな・・・。」
「え、あ~・・・ 旅に出る前に特訓させられたからね ・・・って、狭い」
「狭ぇな・・・」
湯船のへりに両腕を投げ出して壁に後頭部を乗せて大きく溜め息をつくアース。
目の前で動く自分よりも広くて逞しい胸をじ・・・っと見詰めながらカイトは頭の中で呟いていた。
アースは今 何を考えてるんだろう。
まだ怒ってるかな。
聞いたらまた蒸し返して益々気まずくなるかな。
俺、元の世界に戻って最初にアースに逢えて凄い嬉しかったよ。
アースは? 俺に逢いたかった?
心配とか・・・ してくれたりしたのかな。
俺、何か寂しくて、デンに・・・・ そういえば、あの時、デンが何か言って・・・
「おい、ボーっとして・・・ のぼせたのか」
「えっ? いや、大丈夫。俺が何に余所見したのか考えてた。」
「は? お前何言ってんだ」
「あ、え、いや、何でもな・・・い?」
「俺に聞くなよ 知らねーよ 大丈夫か?もう上がれ」
「ぅぅん、もっと・・・ もうちょっと居てもいい?」
「・・・・・・。ほら、後ろ向いて俺に寄りかかれ。そっち蛇口当たるだろ」
「・・・っ うん」
ちゃぽんと音を立てて後ろを向くとアースの脚の間に座って彼の胸に背中を預けた。
カイトの頭に顎を乗せて「煙草持ってくりゃよかったな」とアースが呟く。
頭の上で口が動く振動がくすぐったくて思わず笑ってしまった。
そういえば 一緒にお風呂に入るのって初めてだな。
・・・背中あったかい。
「アース・・・ 今日、寂しかった?」
「ぁあ?」
「悲しいって 思った?」
「・・・・・」
「デン・・・、向こうの世界で俺を助けてくれた人が教えてくれた。 俺と同じ、寂しくて悲しかった?」
「・・・・・・・。 ハァ・・・、余計な事教えやがって・・・。」
アースの顔を見るのが怖くて、背中を向けたままゆっくり聞いてみた。
見なくても分かる。眉間にきつく皺を寄せて不機嫌になってるアースの顔。
「キッカ、無事らしいぞ。ついでにパパンも」
「・・・・・っ!?」
「あの後あいつ、自分の世界に戻ってからまた勝手にどっか飛んでったらしい。で、帰ってきた所を長老って奴にこっ酷く叱られて暫く出禁になったとさ。厳重に見張られて反省文書かされてるけど元気だってさっき使いの奴が謝罪に来た。」
「・・・・・・。」
「人を異世界に飛ばしといて反省文で済むんだな。精霊の世界は緩いよな。」
「・・・・・そうだね」
「・・・・・ お前、今キッカの話が出てイラッとしただろ」
「えっ!?」
ドキッとしてつい振り向いてしまった。
怒ってるはずのアースの眉間は皺なんて無くて、薄く笑いながら自分を覗き込んでくる優しい表情だった。
予想外の出来事にまた心臓がドキッと鳴る。
「・・・・・・ん?」
「・・・うん、した。あの時、キッカとアースが一緒に居るの見てた時も、何か嫌だった。あんなのいつもの事なのに、分かってても、今日は嫌だった。」
「知ってる」
「~~~・・・」
「うん あれは苛め過ぎた・・・ 嫌な思いさせたな」
「ぇ・・・」
アースのまさかの言葉に耳を疑ってしまう。
「何でアースが謝るんだよっ 俺が・・・悪いんだよ? 俺、ずっと、あれからずっとアースにちゃんと謝らないとって思・・・」
「お前はもう謝らなくていいんだよ 今日何度も聞いた お前が居ない間もずっと・・・」
「聞こえてた・・・の?」
「俺はお前みたいに馬鹿正直になれねぇから、いっぱい貰ったお前の『ごめん』を一個返す ・・・・ごめんな」
自分を見詰めるアースの青い瞳が優しく煌めいて細くなる。
驚きと戸惑いの色を混じらせて、彼を見詰め返すカイトの瞳が大きく揺れた。
湯気の所為か目の前がぼやけて、入浴剤が染みた所為か目が痛くて・・・ 勝手に涙が溢れた。
それでも泣くまいと歯を食い縛って耐えるカイトを見てアースの瞳がまた緩んだ。
「ぶっさいくなツラ」
「~~・・・泣いてな゛いよ゛っ ・・・俺、男だがらな゛」
「今 正直って言ったばっかだろ 泣きたい時は素直に泣いとけ。気にすんな、湯気で見えねぇよ」
「・・・・・・ア゛ース゛」
潤んだ瞳から水が零れる瞬間、カイトの頭を自分の胸元に引き寄せ片腕で抱き締めてやる。
アースの胸に頬を寄せて、カイトは小さく丸まって目を閉じた。
「・・・・・ ・・・・・シンが 人間じゃないって分かって、俺嬉しくて・・・ でもちょっとはしゃぎ過ぎたよね」
「もういいって。 分かってる」
「それに俺、アースに言われた通りギルドの依頼も探さなかったし・・・。嫌われたと思って・・・悲しかった」
「うん・・・」
「悲しくて、ぎゅってして欲しくて、でも言えなくて、凄く寂しかった」
「うん・・・」
「ずっと逢いたいって思ってたよ 逢えて嬉しいよ」
「うん・・・」
「さっき、川で、抱えられた時、俺やっぱりアースの事好きだなって思っ・・――――」
「もう黙れって 口塞ぐぞ」
「・・・・・・・。ちゅーしていいの?」
「したくねぇのか?」
「・・・・・・・・・・・。」
「・・・・?何だよ」
「アースのおでこからキラキラした光が出てる。細かい粉になって消えてく・・・ 綺麗だ」
「・・・・・・ ・・・・それは良かった」
少し考えた後、どこか安心したようにふっと笑うアース。
その額から目元に視線を移して暫く見詰め合うと、カイトの方からその唇にキスをした。
アースもびしょ濡れなんだから先に入っていいよと言うと「一服する」と服を脱ぎながら窓際の椅子に腰掛けた。
新しい煙草の包装を解いて火を点けるのを見て、「ありがと・・・」と礼を言い素直に浴室に入った。
少し熱めのお湯を張って頭の先までざぶんと潜る。
冷たく濡れた髪を熱が浸食して脳天までじんわりと暖まって気持ちいい。
暫く潜った後、顔を出してボーっとすると今日の不思議な出来事が頭の中を巡りだして、無意識に電の名前を呟いていた。
「誰だよそれ」
「へぇっ!?」
頭の後ろから声がして驚いて振り向くといつの間にかアースが同じ湯船の中にいて、勢いよく飛び跳ねてしまった。
「びっっっっくりしたー・・・ いつ来たの」
「びっくりしたのはこっちだよ お前何分潜ってんだ。 本当に素潜り得意なんだな・・・。」
「え、あ~・・・ 旅に出る前に特訓させられたからね ・・・って、狭い」
「狭ぇな・・・」
湯船のへりに両腕を投げ出して壁に後頭部を乗せて大きく溜め息をつくアース。
目の前で動く自分よりも広くて逞しい胸をじ・・・っと見詰めながらカイトは頭の中で呟いていた。
アースは今 何を考えてるんだろう。
まだ怒ってるかな。
聞いたらまた蒸し返して益々気まずくなるかな。
俺、元の世界に戻って最初にアースに逢えて凄い嬉しかったよ。
アースは? 俺に逢いたかった?
心配とか・・・ してくれたりしたのかな。
俺、何か寂しくて、デンに・・・・ そういえば、あの時、デンが何か言って・・・
「おい、ボーっとして・・・ のぼせたのか」
「えっ? いや、大丈夫。俺が何に余所見したのか考えてた。」
「は? お前何言ってんだ」
「あ、え、いや、何でもな・・・い?」
「俺に聞くなよ 知らねーよ 大丈夫か?もう上がれ」
「ぅぅん、もっと・・・ もうちょっと居てもいい?」
「・・・・・・。ほら、後ろ向いて俺に寄りかかれ。そっち蛇口当たるだろ」
「・・・っ うん」
ちゃぽんと音を立てて後ろを向くとアースの脚の間に座って彼の胸に背中を預けた。
カイトの頭に顎を乗せて「煙草持ってくりゃよかったな」とアースが呟く。
頭の上で口が動く振動がくすぐったくて思わず笑ってしまった。
そういえば 一緒にお風呂に入るのって初めてだな。
・・・背中あったかい。
「アース・・・ 今日、寂しかった?」
「ぁあ?」
「悲しいって 思った?」
「・・・・・」
「デン・・・、向こうの世界で俺を助けてくれた人が教えてくれた。 俺と同じ、寂しくて悲しかった?」
「・・・・・・・。 ハァ・・・、余計な事教えやがって・・・。」
アースの顔を見るのが怖くて、背中を向けたままゆっくり聞いてみた。
見なくても分かる。眉間にきつく皺を寄せて不機嫌になってるアースの顔。
「キッカ、無事らしいぞ。ついでにパパンも」
「・・・・・っ!?」
「あの後あいつ、自分の世界に戻ってからまた勝手にどっか飛んでったらしい。で、帰ってきた所を長老って奴にこっ酷く叱られて暫く出禁になったとさ。厳重に見張られて反省文書かされてるけど元気だってさっき使いの奴が謝罪に来た。」
「・・・・・・。」
「人を異世界に飛ばしといて反省文で済むんだな。精霊の世界は緩いよな。」
「・・・・・そうだね」
「・・・・・ お前、今キッカの話が出てイラッとしただろ」
「えっ!?」
ドキッとしてつい振り向いてしまった。
怒ってるはずのアースの眉間は皺なんて無くて、薄く笑いながら自分を覗き込んでくる優しい表情だった。
予想外の出来事にまた心臓がドキッと鳴る。
「・・・・・・ん?」
「・・・うん、した。あの時、キッカとアースが一緒に居るの見てた時も、何か嫌だった。あんなのいつもの事なのに、分かってても、今日は嫌だった。」
「知ってる」
「~~~・・・」
「うん あれは苛め過ぎた・・・ 嫌な思いさせたな」
「ぇ・・・」
アースのまさかの言葉に耳を疑ってしまう。
「何でアースが謝るんだよっ 俺が・・・悪いんだよ? 俺、ずっと、あれからずっとアースにちゃんと謝らないとって思・・・」
「お前はもう謝らなくていいんだよ 今日何度も聞いた お前が居ない間もずっと・・・」
「聞こえてた・・・の?」
「俺はお前みたいに馬鹿正直になれねぇから、いっぱい貰ったお前の『ごめん』を一個返す ・・・・ごめんな」
自分を見詰めるアースの青い瞳が優しく煌めいて細くなる。
驚きと戸惑いの色を混じらせて、彼を見詰め返すカイトの瞳が大きく揺れた。
湯気の所為か目の前がぼやけて、入浴剤が染みた所為か目が痛くて・・・ 勝手に涙が溢れた。
それでも泣くまいと歯を食い縛って耐えるカイトを見てアースの瞳がまた緩んだ。
「ぶっさいくなツラ」
「~~・・・泣いてな゛いよ゛っ ・・・俺、男だがらな゛」
「今 正直って言ったばっかだろ 泣きたい時は素直に泣いとけ。気にすんな、湯気で見えねぇよ」
「・・・・・・ア゛ース゛」
潤んだ瞳から水が零れる瞬間、カイトの頭を自分の胸元に引き寄せ片腕で抱き締めてやる。
アースの胸に頬を寄せて、カイトは小さく丸まって目を閉じた。
「・・・・・ ・・・・・シンが 人間じゃないって分かって、俺嬉しくて・・・ でもちょっとはしゃぎ過ぎたよね」
「もういいって。 分かってる」
「それに俺、アースに言われた通りギルドの依頼も探さなかったし・・・。嫌われたと思って・・・悲しかった」
「うん・・・」
「悲しくて、ぎゅってして欲しくて、でも言えなくて、凄く寂しかった」
「うん・・・」
「ずっと逢いたいって思ってたよ 逢えて嬉しいよ」
「うん・・・」
「さっき、川で、抱えられた時、俺やっぱりアースの事好きだなって思っ・・――――」
「もう黙れって 口塞ぐぞ」
「・・・・・・・。ちゅーしていいの?」
「したくねぇのか?」
「・・・・・・・・・・・。」
「・・・・?何だよ」
「アースのおでこからキラキラした光が出てる。細かい粉になって消えてく・・・ 綺麗だ」
「・・・・・・ ・・・・それは良かった」
少し考えた後、どこか安心したようにふっと笑うアース。
その額から目元に視線を移して暫く見詰め合うと、カイトの方からその唇にキスをした。