文【warm × tender snow】20
大きく口を開けた洞窟の傍にある大きな岩の上、ちょうど木の枝がかかって日陰になっているその中に、黒尽くめでサングラスを掛けた銀髪の男が座っている。
まだ誰もゴールしていないだろうと高をくくってダラダラと山道を登ってきた司会者達に気付くと薄く笑って声を掛けてきた。
「外に出たら誰もいらっしゃらないので出口を間違えたのかと思いました。こちらでよろしいんですよね。」
「え?え?? マジすか? ゴールすか? え?まだ一時間すよね?あれ??」
『君、確か一番最後にこの洞窟に入ったんじゃなかったかぃ? 俺、確かに君を見てたからねぇ。』
「すいません、ちょっと発信機回収させて貰ってもいいっすか」
「ええ、どうぞ」
汗だくで固まる男達ににっこりと微笑んで襟に挟んでいた発信機を手渡す。
洞窟に入ると同時にスタートして出口から出ると同時にストップする仕掛けがされたタイマーを三人で恐る恐る確かめた。
「『「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」』」
「・・・・・・・・・。」
・・・・・・・・・・ちょっと、早過ぎましたかね・・・・。 三人とも顔が土色です・・・・。
クリアタイムを見てますます固まる三人を黙って眺めていると、程無く洞窟の奥からジャリジャリと足音が聞こえてきた。
「ぁあ? ここが出口か? ぅわ、まぶしっ・・・」
「おや、早かったですね」
Σ「『「えええええええええええええええええええええええええええええっっっ!!!????」』」
青いコートに青い髪、おまけに瞳も青い男が足元を泥だらけにして眩しそうに出てくる。
驚いて腰の抜けた例の三人に気付くと「何位だ?」と質問した。
「ひ、ひひ日も翳ってない明るい時間に・・・・しかも二人も? ありえないっしょー!」
『何なんだい君たちはっ! さては経験者かぃ? ベテランさんかい??』
「・・・・・・断トツであんた達が一位っすよ ・・・・・・・・タイマーなんかいらなかった ・・・・・・・ん? ていうか、それ・・・・ あんた何持って・・・・」
「あ? これか?」
「『「ぎゃあああああああああああああっ!!!! 魔物じゃねーかぁぁぁぁあああああああっ!!!!!! それも生首じゃねーーかぁぁぁぁぁぁああああっ!!!!! 怖ぇぇぇええええ!!!!!!! もうやだこいつらっっ!!!!!!」』」
「うるせぇなぁ・・・」
「見つかって良かったですね。その首の大きさからすると結構な大物でしょう。ギルドで交渉すればもう少し値が上がるはずですよ。」
「・・・・ああそうだ、 これ、ロウソク返す。 ちょっとしか使ってねぇから心配すんな」
「よろしければプレゼント致しますよ。 使って頂いても結構です。」
「いらねー。 これ使って悦ぶのはお前しかいねーよ」
「え、そうなんですか?」
魔物の首を揺らしながら普通に会話をするふたりを呆然と眺めていたテンダラーが『なんだこの状況・・・』と呟いた。
「テ、テンダラーさん、この洞窟って確か魔物いないはずっすよね?」
『そう聞いてるねぇ』
「大昔に誰かが退治したとかじーさんに聞いた事あるけどあんなにでかい設定じゃなかったっすよ」
「ああ・・・、裏に登録されてた獲物だったからな。普通の奴らが知らねーのは当たり前だ。表で依頼出してても誰も討伐できねーもんだから表向きは誰かが狩ったって話にしてこっそり裏ギルドに移動登録したんだろ。いつまでも退治できねーんじゃギルドの面目丸潰れだからな。 よくある事だ。」
「そんな事より、本日の競技はこれで終了ですか? ラキの様子を見に行きたいのですが」
『そうだねぇ 時間余っちゃったけどこれで終了だねぇ・・・ 俺驚いちゃったぜ あんたら何者だい? 誰もが苦戦するこの洞窟をこんな短時間でクリアするだけでなく魔物退治までこなしちゃうなんて前代未聞だよ!』
「・・・・・これ、明日も競技やる必要あるんすかねぇ」
「大会だからやらないとまずいんだって。 金持ちスポンサーたちの余興で毎年やってるんだからな。 面白ければ既に誰が勝つか分かっててもいいんだよ。」
「・・・・・・・・・なるほどね」
「あ? あいつらコソコソ何喋ってんだ? しばいていいか?」
「何でも・・・・ 私達は賞品が頂ければそれで結構です。 明日も頑張りましょうね」
「もう面倒臭くなってきたな・・・・ まぁいい、このギルドの報酬でいい酒買って帰るか」
「そのお金でカイトに弓を買ってあげたりはしないでくださいね。必ず獲得しますから。」
「買わねーよ馬鹿。 お前こそいらん事言うんじゃねーぞ。」
いつまでも驚いた表情の三人を残して、普段通りの会話をしながらアースとシンが山道を下りて行く。
洞窟の奥からは相変わらずリタイヤする者達の助けを呼ぶ悲鳴が響いていた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・。 えっ、あの青い人、魔物の生首持って街戻るんすかっ!? ちょ、まずいって!何か布、布!」
『・・・・・・パワフルだねぇ』
「・・・・・・・・あの顔の模様、刺青か?」
スポンサーサイト
文【warm × tender snow】22
「ちょっとお前向こう行け 知り合いだと思われたくねぇ」
「先程の討伐達成の報酬は頂きましたか?」
「鼻血拭けって。 今交渉中だ。 この街のギルドは頭が固くていけねぇ 事務的な返事ばっかしやがって腹立つ」
「それだけ管理が行き届いているという事でしょう ・・・・・しかし、この元の報酬額は少々低いかもしれませんね。 この数十年で世界はかなり変わっていますから やはりここは交渉すべき依頼です。」
「ですが・・・ 規則なので私共では何とも・・・ (また変なの来た・・・鼻血垂らしてクレームかよ)」
「その上の奴らと裏ギルド用の丸坊主はいつ戻ってくるんだ お前じゃ話になんねぇから早く代われ」
「まぁまぁ、こちらの方も仕事ですから あまり脅してはいけませんよ。 怖がらせてしまって申し訳ありません」
「はぁ・・・(何だ、この鼻血、いい人じゃん。 この青い人連れてこのまま引き下がってくれたら助かるなぁ。)」
「丁寧に頼んでるじゃねぇかよ・・・」
「毎日のように舞い込んで来るたくさんの依頼を一生懸命捌いていらっしゃるんですから、ねぇ?大変ですよねぇ」
「はぁ・・・ 恐縮です (そうだ忙しいんだよ 諦めて元の金額で我慢してくれよ。 ・・・・実はこの俺がこのギルドで一番偉い局長様だって事は思いもしないだろう。 ふふ、地味顔万歳! さあ帰れっ!この後マジで会議あるんだよ俺は。 そこでこの依頼の報酬額の修正要求をして、浮いた金は俺のパチンコ軍資金になるんだ。 そうだな、2.5倍くらいは上乗せできそうだな・・・。)」
両鼻から血を流しながらニコニコと微笑むシン。
どっちの味方だよてめーは とますます不機嫌になるアースを無視して、微笑んだまま一呼吸置くとゆっくりと再び口を開いた。
「転勤ですか?」
「え?」
「ぁあ? 誰が」
「確か6年前、南の島のギルドに勤めていらっしゃいましたよね貴方」
「・・・・・・・・っ!」
「・・・・・・」
「いい所でした。日差しが強くてうっかり左手を焦がした記憶があります。それから鍾乳洞が心地良くて・・・・」
「・・・・・っ な、ななななんの事でしょうかっ (何だこの鼻血!何を言ってる?)」
「そのギルドで貴方は受付係のアシスタントをしていましたね。 それはもう立派に頑張っていらっしゃいました」
「ぇ、え・・・・・っ (何で知ってる!?)」
「あぁ、そうそう。 確かちょうどその頃、今のように大昔の依頼が達成された事がありましてね、同じように報酬額の見直しが要求されました。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・っ (まさか、いや、まさか・・・・)」
「結局昔のままの報酬額しか受け取れなかったのですが、何故か依頼主はその倍の額を支払ったという噂がどこからか流れてきましてね。 不思議ですよねぇ。 何かの手違いだったのでしょうか。 その後、いつのまにか貴方の姿をお見受けすることができなかったのですが、そうですか、こちらに転勤に・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・っ!!! は、はは・・・・、そうですか。 残念ながら何の話か分かりませんね。 誰かと間違えているのではないですか? ほら、こんな地味顔、たくさんいますから。 ・・・・まぁ、確かに私は転勤で去年からこちらのギルドに勤めていますけども・・・・・ はは・・・ (何だこいつ!バレ・・・・てるはず無いよな、誰も知らんはずだ あの時も完璧に処理したんだ俺はっ!)」
「そうですかはてそういえばギルドってテンキンありましたっけ?(棒読み)」
「わー!! わーー!!! わーーーっ!!!! (駄目だ バレてるぜ!!)」
「うるせぇメガネ狩るぞ」
「先程の討伐達成の報酬は頂きましたか?」
「鼻血拭けって。 今交渉中だ。 この街のギルドは頭が固くていけねぇ 事務的な返事ばっかしやがって腹立つ」
「それだけ管理が行き届いているという事でしょう ・・・・・しかし、この元の報酬額は少々低いかもしれませんね。 この数十年で世界はかなり変わっていますから やはりここは交渉すべき依頼です。」
「ですが・・・ 規則なので私共では何とも・・・ (また変なの来た・・・鼻血垂らしてクレームかよ)」
「その上の奴らと裏ギルド用の丸坊主はいつ戻ってくるんだ お前じゃ話になんねぇから早く代われ」
「まぁまぁ、こちらの方も仕事ですから あまり脅してはいけませんよ。 怖がらせてしまって申し訳ありません」
「はぁ・・・(何だ、この鼻血、いい人じゃん。 この青い人連れてこのまま引き下がってくれたら助かるなぁ。)」
「丁寧に頼んでるじゃねぇかよ・・・」
「毎日のように舞い込んで来るたくさんの依頼を一生懸命捌いていらっしゃるんですから、ねぇ?大変ですよねぇ」
「はぁ・・・ 恐縮です (そうだ忙しいんだよ 諦めて元の金額で我慢してくれよ。 ・・・・実はこの俺がこのギルドで一番偉い局長様だって事は思いもしないだろう。 ふふ、地味顔万歳! さあ帰れっ!この後マジで会議あるんだよ俺は。 そこでこの依頼の報酬額の修正要求をして、浮いた金は俺のパチンコ軍資金になるんだ。 そうだな、2.5倍くらいは上乗せできそうだな・・・。)」
両鼻から血を流しながらニコニコと微笑むシン。
どっちの味方だよてめーは とますます不機嫌になるアースを無視して、微笑んだまま一呼吸置くとゆっくりと再び口を開いた。
「転勤ですか?」
「え?」
「ぁあ? 誰が」
「確か6年前、南の島のギルドに勤めていらっしゃいましたよね貴方」
「・・・・・・・・っ!」
「・・・・・・」
「いい所でした。日差しが強くてうっかり左手を焦がした記憶があります。それから鍾乳洞が心地良くて・・・・」
「・・・・・っ な、ななななんの事でしょうかっ (何だこの鼻血!何を言ってる?)」
「そのギルドで貴方は受付係のアシスタントをしていましたね。 それはもう立派に頑張っていらっしゃいました」
「ぇ、え・・・・・っ (何で知ってる!?)」
「あぁ、そうそう。 確かちょうどその頃、今のように大昔の依頼が達成された事がありましてね、同じように報酬額の見直しが要求されました。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・っ (まさか、いや、まさか・・・・)」
「結局昔のままの報酬額しか受け取れなかったのですが、何故か依頼主はその倍の額を支払ったという噂がどこからか流れてきましてね。 不思議ですよねぇ。 何かの手違いだったのでしょうか。 その後、いつのまにか貴方の姿をお見受けすることができなかったのですが、そうですか、こちらに転勤に・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・っ!!! は、はは・・・・、そうですか。 残念ながら何の話か分かりませんね。 誰かと間違えているのではないですか? ほら、こんな地味顔、たくさんいますから。 ・・・・まぁ、確かに私は転勤で去年からこちらのギルドに勤めていますけども・・・・・ はは・・・ (何だこいつ!バレ・・・・てるはず無いよな、誰も知らんはずだ あの時も完璧に処理したんだ俺はっ!)」
「そうですかはてそういえばギルドってテンキンありましたっけ?(棒読み)」
「わー!! わーー!!! わーーーっ!!!! (駄目だ バレてるぜ!!)」
「うるせぇメガネ狩るぞ」
ラスボス。さんの関連キーワード
文【warm × tender snow】23
「ふふ・・・ 話の分かる方で良かったですね」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ギルドから少し離れた小洒落たカフェ。 店の雰囲気とは少々不釣合いな男2人が、小洒落たテーブルを挟んで座っている。
薔薇の紅茶を美味しそうに飲むシンを煙草を咥えて頬杖をついたアースが何か言いたそうに睨んでいた。
「・・・・・・・・何か?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「『さっきのはお前の話だろ』?」
「ああ」
「そうですね 過去の話です。 あの時の方とまさかこんな所で再会できるとは思ってはいませんでしたが、
・・・・旅をしていればこんな事もあるものです。」
「・・・・・・・・・」
「少し驚かせすぎたかもしれませんね。青ざめていましたから・・・」
「・・・・・・・・・・・」
このヘラヘラと笑うシンという自称吸血鬼。
なんでこいつはいつでもこうニヤニヤしてるんだろう。
自分を騙したムカつく奴を見つけたってのに、通報するでもなくシバくでもなく、今回の依頼報酬額の件をちゃんと処理させただけ。
おかげでがっつり金は手に入ったが、こいつはそれでいいのか
「いいのです。 過去に何があろうと 今こうして生きているのですから、 あの時にあの方が得をしてようが損をしてようが 今の私には既に関係ありません。 どうでもいいのです。」
「・・・・・」
・・・・・ そういうもんか・・・。
「と、言う事で紅茶、ご馳走様です。 大変美味しい薔薇でした♪ ふむ、帰りに少し買って行きましょうか」
「それも俺が買うから注文してこいよ」
「よろしいのですか? この一杯で充分なのですが」
「俺お前に借り作んのすげぇ嫌なんだよ・・・ こうやって向かい合ってお茶すんのもあんま好きじゃねぇし・・・。 それなのによりによって今日一番長く一緒に居んのもお前って・・・・」
「ふふ・・・ 気にしなくてもいいのに・・・」
「・・・・・・・・・・・・ お前さぁ、今回の面倒臭ぇ催事もそうだし、今のギルドの件も・・・、何でそんなに俺らの手助けしてくれるわけ やっぱ何か企んでんだろ」
短くなった煙草をグリグリと灰皿に押し付けて再び睨みつけてくるアースに、グラサン越しでもはっきりと分かるくらいニッコリ微笑んで「いいえ、何も」と答えた後、「・・・・・・・・ 強いて言うなら・・・」と付け加えた。
「・・・・・人間が好きなのです。」
「は・・・・・?」
小首を傾げてそう答えるシンに釣られてアースの首も同じ方向に傾いていた。
「私は永く生きてきましたから・・・・・。 ・・・・・・・・・・・・。 長くない人生を一生懸命に生きようとする人間を見ているのが楽しいのです。」
「・・・・・・・・・・俺はいつも適当に生きてるよ」
「適当に・・・・ 誰かの為に生きているのでしょう?」
「ん・・・・?」
そんなん、考えたことなかった。
シンの言葉を聞いて考え事を始めるアースを、少しだけ残った紅茶に口をつけて暫く待った。
「・・・・・・・・・・・・・・・・。 身体に文様を持つ人間は、大体辛い思いを抱いて生きている方が多い、貴方のように・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・」
「それは・・・・・・・・・・・・ これからもきっと少なくないかもしれない。 そしてきっとあのわたあめも。」
「・・・・・・・・・・お前」
「この世界で、それでも前に進む貴方達は強い。 弱いのに強く生きる貴方達のような人間が私は好きなのです。」
「俺はお前嫌いだぞ」
「はい、ありがとうございます。 それで結構ですよ。 吸血鬼は本来人間に好かれてはいけない生き物ですからね。
ふふ・・・ 私は好き、でも嫌われる・・・・・ 興奮してもいいですか?」
「紅茶ににんにく入れてやろうか」
こいつはやっぱり人外の者なんだって思った。
俺の知らない事をたくさん知ってる。
教えろと言えば多分話してくれるんだろうが、正直こいつに訊いてまで知りたいとは思わない。
これから生きていく間に少しずつ分かっていけばいい。
きっと・・・・・ 俺の故郷の国の事も知ってんだろうな・・・。
・・・・・・・・・・・。
そういえば・・・・、 あいつの昔の話、聞いた事無いな・・・・・。
「あ、好きと言ってもそういう意味ではありませんからね?
私が一番愛してるのはラキですから。 そこの所、お間違いなきよう・・・・、 ・・・・・・聞いてませんね。
無視ですか? いいですねぇ♪ その眼中にない感じ、ゾクゾクします。 はぁ・・・♡」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ギルドから少し離れた小洒落たカフェ。 店の雰囲気とは少々不釣合いな男2人が、小洒落たテーブルを挟んで座っている。
薔薇の紅茶を美味しそうに飲むシンを煙草を咥えて頬杖をついたアースが何か言いたそうに睨んでいた。
「・・・・・・・・何か?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「『さっきのはお前の話だろ』?」
「ああ」
「そうですね 過去の話です。 あの時の方とまさかこんな所で再会できるとは思ってはいませんでしたが、
・・・・旅をしていればこんな事もあるものです。」
「・・・・・・・・・」
「少し驚かせすぎたかもしれませんね。青ざめていましたから・・・」
「・・・・・・・・・・・」
このヘラヘラと笑うシンという自称吸血鬼。
なんでこいつはいつでもこうニヤニヤしてるんだろう。
自分を騙したムカつく奴を見つけたってのに、通報するでもなくシバくでもなく、今回の依頼報酬額の件をちゃんと処理させただけ。
おかげでがっつり金は手に入ったが、こいつはそれでいいのか
「いいのです。 過去に何があろうと 今こうして生きているのですから、 あの時にあの方が得をしてようが損をしてようが 今の私には既に関係ありません。 どうでもいいのです。」
「・・・・・」
・・・・・ そういうもんか・・・。
「と、言う事で紅茶、ご馳走様です。 大変美味しい薔薇でした♪ ふむ、帰りに少し買って行きましょうか」
「それも俺が買うから注文してこいよ」
「よろしいのですか? この一杯で充分なのですが」
「俺お前に借り作んのすげぇ嫌なんだよ・・・ こうやって向かい合ってお茶すんのもあんま好きじゃねぇし・・・。 それなのによりによって今日一番長く一緒に居んのもお前って・・・・」
「ふふ・・・ 気にしなくてもいいのに・・・」
「・・・・・・・・・・・・ お前さぁ、今回の面倒臭ぇ催事もそうだし、今のギルドの件も・・・、何でそんなに俺らの手助けしてくれるわけ やっぱ何か企んでんだろ」
短くなった煙草をグリグリと灰皿に押し付けて再び睨みつけてくるアースに、グラサン越しでもはっきりと分かるくらいニッコリ微笑んで「いいえ、何も」と答えた後、「・・・・・・・・ 強いて言うなら・・・」と付け加えた。
「・・・・・人間が好きなのです。」
「は・・・・・?」
小首を傾げてそう答えるシンに釣られてアースの首も同じ方向に傾いていた。
「私は永く生きてきましたから・・・・・。 ・・・・・・・・・・・・。 長くない人生を一生懸命に生きようとする人間を見ているのが楽しいのです。」
「・・・・・・・・・・俺はいつも適当に生きてるよ」
「適当に・・・・ 誰かの為に生きているのでしょう?」
「ん・・・・?」
そんなん、考えたことなかった。
シンの言葉を聞いて考え事を始めるアースを、少しだけ残った紅茶に口をつけて暫く待った。
「・・・・・・・・・・・・・・・・。 身体に文様を持つ人間は、大体辛い思いを抱いて生きている方が多い、貴方のように・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・」
「それは・・・・・・・・・・・・ これからもきっと少なくないかもしれない。 そしてきっとあのわたあめも。」
「・・・・・・・・・・お前」
「この世界で、それでも前に進む貴方達は強い。 弱いのに強く生きる貴方達のような人間が私は好きなのです。」
「俺はお前嫌いだぞ」
「はい、ありがとうございます。 それで結構ですよ。 吸血鬼は本来人間に好かれてはいけない生き物ですからね。
ふふ・・・ 私は好き、でも嫌われる・・・・・ 興奮してもいいですか?」
「紅茶ににんにく入れてやろうか」
こいつはやっぱり人外の者なんだって思った。
俺の知らない事をたくさん知ってる。
教えろと言えば多分話してくれるんだろうが、正直こいつに訊いてまで知りたいとは思わない。
これから生きていく間に少しずつ分かっていけばいい。
きっと・・・・・ 俺の故郷の国の事も知ってんだろうな・・・。
・・・・・・・・・・・。
そういえば・・・・、 あいつの昔の話、聞いた事無いな・・・・・。
「あ、好きと言ってもそういう意味ではありませんからね?
私が一番愛してるのはラキですから。 そこの所、お間違いなきよう・・・・、 ・・・・・・聞いてませんね。
無視ですか? いいですねぇ♪ その眼中にない感じ、ゾクゾクします。 はぁ・・・♡」