【シン×ラキ】月と瞳と血と絆 1
「何見てんだ、シン」
「・・・・・、ラキ、今夜は月蝕です。ほら、月が赤い」
「ぉ、ホントだ 雲無ぇからはっきり見えるな」
「こんなに綺麗な月は久し振りですね」
ギルドの仕事を終え、滞在先の宿に戻り食事を済ませた後、ラキがこの街名物の温泉に入ると言うので廊下で別れシンだけ先に部屋に向かった。
本当は一緒に行きたかったけれど、今日一日べったりだったのに風呂まで一緒じゃうざいと拒否されたので仕方ない。
暗いのが苦手なラキの為に、先に部屋を明るくして暖めておこうと気持ちを切り替えてドアを開けた。
すっかり日も沈んで時間的にも完全に夜なのに、暗い部屋の窓辺が妙に明るくてシンは怪訝な顔をする。
その明かりを確かめようと窓から外を覗くと、真上に大きな満月が浮かんでいて目を見張った。
宿への帰り道はずっとラキの後頭部と横顔と、握ろうと狙っていた手だけを凝視して歩いていたので頭上の月には全く気が付かなかった。
いつもよりも若干大きい気がするその月を見ていると、何とも妖艶で、測ったかのように正確で綺麗な円に魅入られてしまう。
窓際に置いてあった椅子に腰掛けて暫く眺めていると、じわりと月の端が歪んで赤銅色に染まり始めた。
月蝕とは珍しい 何年振りだろう なんて思いながらゆっくりと色を変えていくそれと昔の記憶を重ね合わせて目を細める。
いつの間にか戻ってきたラキに話し掛けられ、現実に引き戻される頃には完全に浸食が済んでいて、赤く茶色い月がふたりを照らしていた。
灯りを点けるのを忘れていた事を思い出しハッとすると「いいよ」とラキが応えて手をひらひらさせる。
「お前さ、あれ見て狼になったりしねぇの? ざわざわ~っとかこねぇの?」
「私は狼男ではありませんよ」
「あ、そか、何か勘違いした」
窓の縁に腕を置いて月を見上げながら「ははは」と笑うラキ。
吸血鬼のシンがたまに狼に変身したりするのを見ている所為か、純粋に勘違いして照れているその姿が可愛くて、シンも小さく微笑んだ。
まだ濡れた黒髪が月の光に反射して赤く染まる。
お湯の香りのする暖かいラキの身体を後ろから包み込んで頬を寄せると、素直にその抱擁を許してくれた。
「でも少し、血は騒ぎます」
「赤いからか?いつもと違う月だしな・・・、俺も何か珍しくてつい見ちまうし」
「・・・・・気持ち悪いですか?」
「いや」
どこか自嘲気味に尋ねたシンの言葉にラキはすぐに返答する。
その問いに含まれた意味を理解したのかしていないのか、シンは確かめるようにもう一度訊ねてみた。
「・・・・・怖い?」
「いや、ずっと見てると吸い込まれそうなのに目が離せねぇっつーか・・・・、ほらお前の瞳みてぇに」
「・・・・・・・」
「? 月、見ろよ」
耳元で自信無さ気に質問するシンの紅い瞳を見ようと振り返り顔を上げると、じ・・・っとこちらを見詰めているそれと視線がかち合ってラキは目を見開く。
てっきりシンもあの満月を見ているものだと思っていたから。
切れ長の整った眉を切なげに歪ませて薄く笑う真紅の瞳が 月明りで静かに揺れている。
「確かに似てますね、月は太陽の光に染められて赤く、私の瞳はラキの血に染められて赤くなった」
「・・・・・・・」
「どちらも自分自身では色付ける事ができない」
「月見ろって」
シンの問いにラキが間を置かず答えてくれた事が嬉しくて、気持ちが溢れ出しそうになる。
意志の強いラキの裏表の無いその言葉が、人ではないシンの沈み掛けた心を掬い上げてくれる。
初めてラキと出逢ったあの時も・・・
たった5歳の子供に自分が吸血鬼だと告げたあの時も、ラキは怖がらなかった。
そんな事よりも独り生き残された状況の中、偶然見付けた棺で眠るシンが生者なのか死者なのかの方がラキにとっては恐怖だった。
目覚めたばかりで身体の機能が戻らず声も出せない自分に、一緒に居て欲しいと願い、新しい名と血を与えてくれた。
シンにとっては一息に感じられる程の年月しか生きていないラキに、純粋に必要とされて、ただ一緒に生きることを望まれる。
そんな事はシンの永い永い時間の中で初めての経験だった。
それから15年、シンの小さなマスターは大人になり両手で覆っただけでは隠せないほどに成長した。
いつの間にかラキの願いはシンの願いにもなり、ラキの存在がシンの全てになっていた。
「私には貴方が必要です」
「俺よりでかいくせに」
「うん・・・・ごめんね・・・」
「うっせばーか」
依存しきっているのは自分でも分かっている。
ラキがシンに頼らず強くなって自立しようと努力しているのも知っている。
頭では理解しているからこそ胸の奥が苦しくて、ラキを抱き締める腕に力がこもった。
つづく
◆月と瞳と血と絆 2 (20日頃)

◆追記で独り言とコメントお返事
「・・・・・、ラキ、今夜は月蝕です。ほら、月が赤い」
「ぉ、ホントだ 雲無ぇからはっきり見えるな」
「こんなに綺麗な月は久し振りですね」
ギルドの仕事を終え、滞在先の宿に戻り食事を済ませた後、ラキがこの街名物の温泉に入ると言うので廊下で別れシンだけ先に部屋に向かった。
本当は一緒に行きたかったけれど、今日一日べったりだったのに風呂まで一緒じゃうざいと拒否されたので仕方ない。
暗いのが苦手なラキの為に、先に部屋を明るくして暖めておこうと気持ちを切り替えてドアを開けた。
すっかり日も沈んで時間的にも完全に夜なのに、暗い部屋の窓辺が妙に明るくてシンは怪訝な顔をする。
その明かりを確かめようと窓から外を覗くと、真上に大きな満月が浮かんでいて目を見張った。
宿への帰り道はずっとラキの後頭部と横顔と、握ろうと狙っていた手だけを凝視して歩いていたので頭上の月には全く気が付かなかった。
いつもよりも若干大きい気がするその月を見ていると、何とも妖艶で、測ったかのように正確で綺麗な円に魅入られてしまう。
窓際に置いてあった椅子に腰掛けて暫く眺めていると、じわりと月の端が歪んで赤銅色に染まり始めた。
月蝕とは珍しい 何年振りだろう なんて思いながらゆっくりと色を変えていくそれと昔の記憶を重ね合わせて目を細める。
いつの間にか戻ってきたラキに話し掛けられ、現実に引き戻される頃には完全に浸食が済んでいて、赤く茶色い月がふたりを照らしていた。
灯りを点けるのを忘れていた事を思い出しハッとすると「いいよ」とラキが応えて手をひらひらさせる。
「お前さ、あれ見て狼になったりしねぇの? ざわざわ~っとかこねぇの?」
「私は狼男ではありませんよ」
「あ、そか、何か勘違いした」
窓の縁に腕を置いて月を見上げながら「ははは」と笑うラキ。
吸血鬼のシンがたまに狼に変身したりするのを見ている所為か、純粋に勘違いして照れているその姿が可愛くて、シンも小さく微笑んだ。
まだ濡れた黒髪が月の光に反射して赤く染まる。
お湯の香りのする暖かいラキの身体を後ろから包み込んで頬を寄せると、素直にその抱擁を許してくれた。
「でも少し、血は騒ぎます」
「赤いからか?いつもと違う月だしな・・・、俺も何か珍しくてつい見ちまうし」
「・・・・・気持ち悪いですか?」
「いや」
どこか自嘲気味に尋ねたシンの言葉にラキはすぐに返答する。
その問いに含まれた意味を理解したのかしていないのか、シンは確かめるようにもう一度訊ねてみた。
「・・・・・怖い?」
「いや、ずっと見てると吸い込まれそうなのに目が離せねぇっつーか・・・・、ほらお前の瞳みてぇに」
「・・・・・・・」
「? 月、見ろよ」
耳元で自信無さ気に質問するシンの紅い瞳を見ようと振り返り顔を上げると、じ・・・っとこちらを見詰めているそれと視線がかち合ってラキは目を見開く。
てっきりシンもあの満月を見ているものだと思っていたから。
切れ長の整った眉を切なげに歪ませて薄く笑う真紅の瞳が 月明りで静かに揺れている。
「確かに似てますね、月は太陽の光に染められて赤く、私の瞳はラキの血に染められて赤くなった」
「・・・・・・・」
「どちらも自分自身では色付ける事ができない」
「月見ろって」
シンの問いにラキが間を置かず答えてくれた事が嬉しくて、気持ちが溢れ出しそうになる。
意志の強いラキの裏表の無いその言葉が、人ではないシンの沈み掛けた心を掬い上げてくれる。
初めてラキと出逢ったあの時も・・・
たった5歳の子供に自分が吸血鬼だと告げたあの時も、ラキは怖がらなかった。
そんな事よりも独り生き残された状況の中、偶然見付けた棺で眠るシンが生者なのか死者なのかの方がラキにとっては恐怖だった。
目覚めたばかりで身体の機能が戻らず声も出せない自分に、一緒に居て欲しいと願い、新しい名と血を与えてくれた。
シンにとっては一息に感じられる程の年月しか生きていないラキに、純粋に必要とされて、ただ一緒に生きることを望まれる。
そんな事はシンの永い永い時間の中で初めての経験だった。
それから15年、シンの小さなマスターは大人になり両手で覆っただけでは隠せないほどに成長した。
いつの間にかラキの願いはシンの願いにもなり、ラキの存在がシンの全てになっていた。
「私には貴方が必要です」
「俺よりでかいくせに」
「うん・・・・ごめんね・・・」
「うっせばーか」
依存しきっているのは自分でも分かっている。
ラキがシンに頼らず強くなって自立しようと努力しているのも知っている。
頭では理解しているからこそ胸の奥が苦しくて、ラキを抱き締める腕に力がこもった。
つづく
◆月と瞳と血と絆 2 (20日頃)

◆追記で独り言とコメントお返事
スポンサーサイト